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INTERACTIVE / 鉄道の保守

架線検測ラボ

走っている列車の屋根の上、細い1本の銅線。架線の検測は、この線について高さ・偏位・摩耗という3つの値を、走りながら同時に測っています。高さが急に変われば離線し、離線すればすり減る。偏位が偏れば、すり板の同じ場所ばかりが削れる。3つは互いにつながっています。検測車を走らせて、その3本の記録がどう動き、どこで基準を外れるのかを確かめてください。

図の内容:「断面を見る」では、トロリ線の断面が下からすり減っていく様子と、しゅう動面幅・残存直径・摩耗限度の関係を示しています。「検測車で測る」では、正面から見たレール・パンタグラフ・トロリ線の位置関係と、高さ・偏位・残存直径の3本の記録がキロ程に対応して描かれます。数値は下の計器にも表示されます。

操作

トロリ線の種類

みぞ付硬銅トロリ線(GT-Sn)の公称断面積 mm²。

新品限度を大きく超える

わたり線などで、パンタグラフの当たり方が偏ると面が傾きます。

実際の値は事業者や線区の条件で定められます。ここでは目安として動かせるようにしています。

計器

残存直径(実際にいちばん薄いところ)0.00mm
摩耗限度までの余裕0.00mm
しゅう動面幅0.00mm
残存断面積0.0mm²新品 0.0 mm²
断面積の減少0.0%
引張荷重の目安0.0kN

検測が見ているのは1つではない ― 高さ・偏位・摩耗

架線検測装置が走行しながら測っているのは、摩耗だけではありません。レール面(軌道面)からトロリ線までの高さ、軌道の中心から左右にどれだけずれているかを示す偏位、そしてすり減りの度合いを示す摩耗、この3つを同時に測っています。あわせて、パンタグラフが受ける衝撃の加速度も記録されます。

この3つは、別々に起きる問題ではありません。どれか1つが崩れると、他の項目にも影響が及びます。たとえばトロリ線の高さが急に変わると、パンタグラフがばねで押し上げられながら追従しきれず、架線から一瞬離れてしまう離線が起きやすくなります。離線が増えれば、そのぶんアークによる電気的な摩耗も進みます。また偏位が一方に偏ったままだと、パンタグラフのすり板の同じ場所ばかりが当たり続けることになり、局部的な摩耗につながります。高さ・偏位・摩耗は、互いに原因にも結果にもなり得る関係にあるということです。

だからこそ、この3つはばらばらに測るのではなく、同じ検測車の同じ走行で、キロ程(起点からの距離)に対応づけながら同時に記録しておく必要があります。ある地点で高さが基準を外れていれば、その付近の偏位や摩耗の記録もあわせて確認する、という見方ができるようになるからです。

項目何を測るか外れると何が起きるかこのシミュレーターでの判定
高さ軌道面からトロリ線までの上下方向の距離パンタグラフが追従しにくくなり、離線や接触不良につながる4,400mmから5,400mmの範囲、こう配3/1000以下
偏位軌道中心から左右へのトロリ線のずれすり板の同じ場所ばかりが当たり、局部摩耗や脱線的な離脱につながる軌道中心から左右250mm以内
摩耗トロリ線のすり減りによる残存直径の減少張力を支えきれなくなり、断線の危険が高まる残存直径が摩耗限度以上

トロリ線の高さ ― 低すぎても高すぎてもいけない

トロリ線の高さは、軌道面(レールの上面)を基準にして測ります。標準となる高さは5,100mmです。ただし路線の条件によって多少の幅があり、在来線では最低4,400mmから最高5,400mmまでの範囲に収めることとされています。新幹線では最低4,800mmから最高5,300mmまでと、在来線よりやや高い位置かつ狭い範囲に定められています。

高さが低すぎると、建築限界(車両や設備が入り込んではいけない空間)に近づきすぎたり、人や車両との距離が縮まって感電の危険が高まったりします。跨線橋の下や踏切といった、上に構造物や人が近づく場所では特に注意が必要です。逆に高さが高すぎると、パンタグラフを大きく持ち上げなければならなくなります。パンタグラフを上げる角度が変わると、トロリ線を押し上げる力や、揺れに追従する性能も変わってしまいますし、限度を超えて高い場合はパンタグラフが届かず接触そのものができなくなることもあります。

ただし、高さの値そのもの以上に問題になりやすいのが、高さが急に変わることです。パンタグラフはばねの力でトロリ線に押し当てられながら上下に追従していますが、高さの変化が急だと、そのばねの動きが追いつかず、離線を起こしてしまいます。そのため高さの基準には、値そのものの範囲だけでなく、変化の度合い(こう配)についても制限が設けられています。列車が頻繁に走る本線では3/1000以下、それ以外の側線では15/1000以下です。

3/1000という値は、1000m進む間に3m変化するという意味ではなく、1m進む間に3mm変化する、という割合です。たとえば支持点と支持点の間隔(径間)が50mだとすると、その50mの間で高さが最大でも15cmしか変わらない、という計算になります。それだけ緩やかにしか高さを変えてはいけない、ということです。

実際に高さが変わる場所としては、車両限界の小さいトンネルの中、跨線橋の下、踏切の付近、駅のホーム上家(屋根)の下などが挙げられます。こうした場所では、上部の構造物との間隔を確保するためにトロリ線の高さを下げる必要があり、その前後で急な変化が起きやすくなります。

偏位 ― わざとジグザグに張る理由

偏位とは、軌条面(レールの走行面)に垂直な軌道の中心線から、トロリ線が左右方向にどれだけずれているかを表す値です。

もしトロリ線が軌道の中心を一直線に通っていたら、パンタグラフのすり板は、いつも同じ位置だけがこすれ続けることになります。同じ場所ばかりが摩耗すれば、そこに深い溝ができてしまい、局部摩耗が一気に進んでしまいます。これを防ぐため、地上区間の直線部分では、トロリ線は原則としてジグザグに架設されます。支持点ごとに左右へ少しずつ振っておくことで、すり板の広い範囲を均等に使わせ、摩耗を分散させているのです。

ただし、このジグザグの振れ幅を大きくしすぎることもできません。偏位が大きくなるほど、トロリ線はすり板の端に近づいていき、限度を超えて外れてしまえば、パンタグラフから架線が離脱する重大な事故につながります。そのため偏位には、軌道中心から左右で最大250mm(新幹線では300mm)という限度が定められています。

曲線区間では、事情がさらに複雑になります。トロリ線をまっすぐに張ってしまうと、曲線に沿わずに弦のような直線を結ぶ形になり、曲線の内側へ寄っていってしまいます。そこで曲線区間では、曲線引装置と呼ばれる金具を使い、トロリ線を曲線の外側へ引っ張ることで、軌道中心付近の適切な位置に保っています。曲線引装置を取り付けたトロリ線の偏位は、曲線の外方へ200mmを超えないものとされています。

偏位は一度架設すれば変わらないものではありません。風による横揺れ、支持物のわずかな傾き、曲線引装置の緩みなどによって、実際の偏位は変化しうるものです。だからこそ、高さや摩耗と同じように、偏位についても検測によって継続的に確認していく必要があります。

トロリ線はなぜすり減るのか

電車の屋根にあるパンタグラフは、先端のすり板をトロリ線(パンタグラフが直接接触する架線)に軽く押し当てながら走ります。走行中はずっと、すり板とトロリ線がこすれ合っているわけですから、二つの部品はどちらも少しずつ削れていきます。すり板のほうは最初から消耗品として扱われており、定期的に交換する前提で設計や点検の仕組みが組まれています。一方のトロリ線は、簡単には交換できない設備なので、どれくらいすり減っているかを継続的に把握し、必要になったところから計画的に張り替えていく必要があります。

トロリ線の摩耗には、大きく分けて二つの種類があります。一つは、すり板とこすれ合うことで金属が物理的に削られていく機械的摩耗です。もう一つは、パンタグラフが走行中の振動やたわみによって一瞬トロリ線から離れてしまう離線が起きたときに発生する、電気的な摩耗です。離線した瞬間には、それまで流れていた電流が空中を飛び越えようとしてアーク(放電による火花)が生じ、その熱でトロリ線やすり板の表面がわずかに溶けて失われます。機械的な摩耗が「こすれて削れる」ものだとすれば、電気的な摩耗は「焼けて失われる」ものだといえます。

この二つの摩耗の進み方は、電気の流れ方に左右されます。流れる電流が大きいほど、離線したときのアークも激しくなりやすく、電気的な摩耗が進みやすくなります。また、架線の状態や走行速度によって離線そのものが起きやすい箇所では、当然その分だけ摩耗も進みやすくなります。つまりトロリ線の摩耗は、単に「すり板と長くこすれ合った距離」だけでなく、「どれだけ大きな電流が、どれだけ離線しながら流れたか」という、電気的な条件にも強く影響を受けているのです。

トロリ線がすり減って断面積が小さくなると、まず電気抵抗が上がり、電気を送る能力がわずかに落ちます。しかしそれ以上に重要なのは、強度の問題です。トロリ線は支柱と支柱の間でたるまないよう、常に一定の力で引っ張られた状態(張力)で張られています。断面積が減っていくと、その張力を支えきれる余裕もどんどん小さくなっていき、最後には引きちぎれるように断線してしまう危険があります。ですから、トロリ線の寿命は「電気的に十分足りているかどうか」ではなく、「張力に耐える強度がまだ残っているかどうか」で決められています。

トロリ線の断面はどうなっているか

在来線で広く使われているみぞ付き硬銅トロリ線(GT-Sn)には、断面積の異なる複数の種類があり、路線の電流の大きさなどに応じて使い分けられています。代表的な規格の値は次のとおりです。

型番断面積直径質量引張荷重
GT-Sn-8586.6 mm²11.00 mm770 g/m31.8 kN
GT-Sn-110110.5 mm²12.34 mm982 g/m40.2 kN以上
GT-Sn-150150.2 mm²14.40 mm1335 g/m53.9 kN以上
GT-Sn-170169.4 mm²15.49 mm1506 g/m58.8 kN以上

トロリ線は、断面がほぼ円形をしています。ただし単なる丸い棒ではなく、左右の側面に「みぞ」と呼ばれるへこみが1本ずつ通っています。このみぞには、イヤーと呼ばれる金具がかみ合わせてあり、その金具を通じてトロリ線がハンガーからちょう架線へと吊り下げられています。つまりみぞは、トロリ線をぶら下げるための取り付け構造そのものです。だからこそ、摩耗が下側から進んでいって断面がみぞの高さまで近づいてくると、単に電気を通す部分が減るだけでなく、トロリ線を支えている部分そのものが危うくなってきます。

断面積と直径の関係にも注意が必要です。表を見るとわかるとおり、直径がわずかに小さくなっただけでも、断面積(円の面積)はそれよりずっと大きな割合で減っていきます。円の面積は半径の2乗に比例するため、直径が均等に減っていくように見えても、実際に電気を通したり張力を支えたりする「実質的な太さ」は、後になるほど急速に失われていくのです。このため、摩耗の管理では「あとどれだけ太さの余裕があるか」を、感覚的な直径の減り方以上に注意深く見ておく必要があります。

材質にも工夫があります。トロリ線には、純粋な銅ではなく、錫(すず)をわずかに0.30パーセント前後だけ加えた銅(銅99.55パーセント以上、導電率70パーセントIACS以上)が使われています。錫を混ぜることで、電気を通す性能(導電率)をほとんど落とさないまま、純銅よりも硬く、摩耗や引張荷重に強い材料になります。電気をよく通すことと、機械的に丈夫であることは、金属の世界ではしばしば両立しにくい性質ですが、ごく少量の錫を加えることで、そのバランスをうまく取っているわけです。

局部摩耗 ― すり減り方は場所によって全く違う

トロリ線の摩耗は、路線全体で均等に進んでいくわけではありません。ある区間ではまだ新品に近い状態が保たれている一方、ほんの数十メートルから数百メートルの限られた範囲だけが集中的にすり減っている、ということがよく起こります。このように特定の箇所だけ摩耗が早く進む現象を、局部摩耗と呼びます。

局部摩耗が起きやすい代表的な場所として、いくつかの例が挙げられます。駅を発車してすぐの区間では、列車が大きな電流を流しながら力行(加速)を始めるため、電気的な摩耗が進みやすくなります。上り勾配が始まる地点も同様に、大きな引張力を出すために電流が増えやすい場所です。き電区分所やエアセクションといった、電気的に区切られた架線の境目付近では、電圧や電流の状態が変化しやすく、離線も起こりやすくなります。わたり線や分岐部では、パンタグラフが一本のトロリ線から別のトロリ線へと乗り移る動きをするため、局所的に強く押し付けられたり、逆に浮き上がったりしやすくなります。このほか、曲線区間やトンネルの出入口のように、架線の高さや偏位(左右のジグザグ)が変化しやすい箇所、パンタグラフの押し上げ力が変わりやすい箇所でも、摩耗が進みやすい傾向があります。

このように、摩耗の進み方は場所ごとの走行条件や設備条件によって大きく左右されます。そのため「路線のどこか1か所だけを測って、そこから路線全体の状態を推測する」という方法は成り立ちません。局部摩耗を見逃さずに把握するには、路線全体を切れ目なく連続して測り、キロ程(起点からの距離)ごとの摩耗の状態を細かく記録していくことがどうしても必要になります。

従来のはかり方 ― しゅう動面幅から残存直径へ

トロリ線がすり減っていくと、もとは円形だった断面の下側、つまりすり板と接している面に、平らな部分ができてきます。この平らな部分をしゅう動面と呼びます。摩耗が進むほど、このしゅう動面はだんだん幅を広げていきます。

従来から使われている電気検測車は、この「しゅう動面幅」をセンサーで測ることで摩耗の状態を把握してきました。トロリ線がもともと正確な円形であるという前提のもとで、しゅう動面の幅から、幾何学的な計算によって「まだ残っている直径(残存直径)」を割り出しているのです。円の一部を弦(平らな面)で切り取ったとき、その弦の幅がわかれば、円の半径や中心からの距離を計算で求められる、という幾何学の考え方を応用したものだといえます。

ここで注意しておきたいのは、しゅう動面幅とトロリ線の太さの関係が、単純な比例関係ではないということです。摩耗がまだ浅いうちは、しゅう動面幅が少し広がっても、残存直径の減り方はそれほど大きくありません。しかし摩耗が進んで断面の中心に近づいてくると、しゅう動面幅がわずかに広がっただけでも、対応する残存直径はより大きく減っていきます。つまり、摩耗が進むほど「幅の変化」に対する「直径の減り方」が急になっていく関係になっているのです。このため、摩耗の後半になるほど、測定の精度がそれまで以上に重要になってきます。

電気検測車で得られた測定結果は、キロ程ごとの残存直径として記録されます。この記録の中で、あらかじめ定められたしきい値(基準となる値)を下回った箇所が、張り替えを検討すべき対象として洗い出されます。また検測車による広範囲の測定に加えて、携帯型(ハンディ型)の測定器を保守の担当者が現地に持ち込み、実際にトロリ線に当てて直接測定する方法も使われています。これは、検測車で得られた測定結果を現地で確かめたり、気になる箇所だけをピンポイントで詳しく確認したりする際に役立てられています。

この換算がうまくいかない場合 ― 偏摩耗

しゅう動面幅から残存直径を求める方法は、「しゅう動面が水平で、なめらかな一直線になっている」ということを前提にしています。しかし実際の摩耗は、必ずしもそのとおりに進むとは限りません。しゅう動面が水平にならず斜めに傾いていたり、途中に段差ができたりする摩耗のしかたを、偏摩耗と呼びます。偏摩耗が起きていると、幅の測定値をそのまま円の幾何学で換算しても、実際の残存直径とは違う値が出てしまいます。

偏摩耗が起きやすい代表的な場所が、わたり線などパンタグラフの当たり方が偏りやすい箇所です。パンタグラフがトロリ線の中心からずれた位置を通ったり、片側に寄って押し当てられたりすると、断面が左右非対称にすり減っていき、しゅう動面も水平な一直線ではなくなっていきます。

もう一つ精度を落とす要因として、しゅう動面の近くにできてしまったすり傷が挙げられます。センサーがしゅう動面の端を探すときに、こうしたすり傷を誤ってしゅう動面の端だと読み取ってしまうことがあり、そうなると計算に使う幅の値そのものがずれてしまいます。

これらの問題に共通しているのは、「しゅう動面幅」という一つの数値だけでは、断面がどんな形にすり減っているかという情報が失われてしまう、ということです。断面の形が教科書どおりのきれいな円弧でなくなった瞬間に、幅から直径を求める計算の前提が崩れてしまいます。これが、従来のはかり方が抱える根本的な限界だといえます。

光切断法 ― 断面の形そのものを測る

この限界を乗り越えるために、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は、光切断法と呼ばれる手法を使って、トロリ線の断面形状そのものを測る技術を開発しました。光切断法では、まず細いスリット状(帯のように薄く絞った形)の光をトロリ線に当てます。この光がトロリ線の丸みのある表面に当たると、光の線は表面の凹凸に沿って曲がったり折れ曲がったりして見えます。この様子を、光を当てた方向とは少しずらした位置に置いたカメラで撮影すると、撮影された光の線の形が、そのままトロリ線の断面の輪郭を映し出すことになります。トロリ線に直接触れることなく、断面の形を丸ごと読み取れるのがこの手法の特徴です。

実際の測定では、トロリ線の下半分(すり板と接触する側)の形状を光切断法で連続的に読み取っていきます。そして、新品のときの断面形状と、現在測定した断面形状とを重ね合わせ、その差を計算することで、摩耗によって失われた断面積を求めます。新品の断面積からこの減少分を差し引けば、現在残っている残存断面積を直接算出できます。しゅう動面幅という一つの数値を経由するのではなく、形の差そのものから面積を出す、という考え方です。

この手法の大きな利点は、幅ではなく形そのものを測っているため、偏摩耗のように断面が非対称にすり減っている場合でも、正しく摩耗の量を評価できることです。また鉄道総研の検証では、屋外の実際の環境下でも高い精度で測定できることが確認されています。振動や光の当たり方が変わりやすい屋外でも実用的な精度が出ることは、現場で使う技術として重要な意味を持ちます。わたり線のように偏摩耗が生じやすい箇所にも、この光切断法を適用できることが確かめられています。さらに、トンネルなどで使われる、たわむことのない硬い構造の電車線である剛体電車線に対しても、この手法を適用できることがわかっています。

連続して測る仕組み ― 検測車とモニタリング

摩耗の状態を路線全体で把握するために使われているのが、架線検測装置です。この装置は、摩耗の状態に加えて、トロリ線の偏位(左右のジグザグの位置)、レール面からの架線の高さ、パンタグラフが受ける衝撃の加速度など、複数の項目を、列車を走らせながら連続して測定します。測定した結果はその場でリアルタイムに表示され、記録として残されます。こうした架線検測装置は、専用の電気検測車だけでなく、線路の保守作業に使われる保守用車や、道路と線路の両方を走れる軌陸車にも搭載されることがあります。

実際の取り組みの例として、JR東日本が2021年4月から進めている「架線設備モニタリング」があります。これは、East-i(JR東日本が保有する新幹線用の総合検測車)に搭載されたカメラやセンサーで取得した画像などのデータを活用する仕組みで、首都圏の線区以外の在来線38線区、距離にしておよそ5,500キロメートルにわたって導入されています。専用の検測車だけに頼るのではなく、日常的に走っている検測用車両のデータも活用して、より広い範囲の架線設備の状態を把握しようという取り組みです。

どれくらいの頻度で検測を行うかについても、路線ごとに一律ではありません。摩耗の進みが早いと考えられる線区や区間では検測の間隔を詰めて、より頻繁に状態を確認する、という考え方がとられています。こうした流れの背景には、あらかじめ決めた一定の周期で点検・交換を行う時間基準の保守から、実際に測定した設備の状態をもとに手を打つタイミングを判断する、状態基準の保守(CBM)へと考え方が広がりつつある、という動きがあります。ただしこれは鉄道全体で一様に進んでいる変化というより、路線や事業者ごとの取り組みとして少しずつ広がっているものだと捉えておくのがよいでしょう。

測ったあとどうするか

検測によって得られたキロ程ごとの残存直径のデータは、あらかじめ定められたしきい値と比較されます。しきい値を下回った箇所は、優先して張り替えるべき対象として洗い出され、摩耗の進み具合が大きい箇所から順に張り替え作業の計画が立てられていきます。張り替え方には、ある区間のトロリ線をまるごと新しいものに交換する場合と、特に傷んでいる部分だけを部分的に入れ替える場合とがあります。

こうした架線の張り替え作業は、多くの場合、営業列車が走っていない夜間の限られた時間帯に行われます。作業できる時間が短く区切られているため、どの区間を、どの順番で、どのタイミングで張り替えるかという計画づくりが、保守全体の効率を大きく左右します。だからこそ、検測によって路線全体の摩耗状態を正確かつ継続的に把握しておくことが重要になるのです。

摩耗そのものの進み方を抑えるための対策も、さまざまな形で行われています。たとえば、パンタグラフのすり板に使う材質を工夫して摩耗を抑えたり、離線が起きにくくなるよう架線やパンタグラフの構造を改良したりする取り組みがあります。またトロリ線そのものについても、摩耗により強い材料を採用することで、同じ条件でも寿命を延ばそうとする工夫が続けられています。

現場での目視点検を助ける工夫として、トロリ線の側面のうち摩耗限度に達する位置にあらかじめ細い「摩耗溝」を入れておく製品もあります。摩耗が進んで断面がその位置まですり減ってくると、この溝の形が変化したり見え方が変わったりするため、精密な測定機器を使わなくても、目で見ておおまかな摩耗の進み具合を判別しやすくなる、という工夫です。

この教材で試せること

この教材のシミュレーターでは、ここまで説明してきた高さ・偏位・摩耗のしくみと検測のしくみを、実際に操作しながら確かめることができます。画面は「断面を見る」と「検測車で測る」の2つの表示に切り替えられます。

「断面を見る」では、トロリ線の種類を、断面積の異なる85平方ミリメートル、110平方ミリメートル、150平方ミリメートル、170平方ミリメートルの中から切り替えられます。摩耗の進み具合をスライダーで動かすと、トロリ線の断面図が新品のときの輪郭と重ねて描かれ、しゅう動面幅、残存直径、残存断面積、断面積の減少率、そして摩耗限度まであとどれくらいの余裕があるかが、同時に変化する様子を見ることができます。さらに、しゅう動面の傾き(偏摩耗)を加えると、しゅう動面幅から換算した残存直径と、実際にいちばん薄いところの値との間にずれが生じる様子を確認できます。

「検測車で測る」では、検測車が2kmの区間を走り、高さ・偏位・残存直径の3つを同時に記録します。3本のグラフがキロ程に対応づけて同時に描かれ、それぞれの基準を外れた箇所には印がつきます。同じ画面には、線路を正面から見た図もあわせて表示され、レール、軌道中心、パンタグラフのすり板、トロリ線の位置関係が、検測車の走行に合わせて動きます。この図には、偏位の限度と高さの許容範囲が帯として示されるので、今どのあたりに位置しているかを視覚的につかめます。また、高さの変化の度合い(こう配)が本線の基準である3/1000を超えた箇所も検出され、その数が数えられます。

局部摩耗や、高さ・偏位が変わりやすい地点へは、ワンタッチで移動できます。移動すると、その場所で何が起きているかについての説明があわせて表示される仕組みになっています。なお摩耗限度は、目安として画面上でいつでも動かせるようになっています。

この教材で扱う断面形状は、実物のトロリ線を簡略化した、円とみぞだけからなるモデルです。摩耗限度の具体的な値はあくまで目安であり、実際には事業者や線区ごとの条件によって個別に定められています。また検測車の測定データとして表示される高さ・偏位・残存直径の記録は、この教材のために作成した架空のものであり、実在する路線の測定結果ではありません。

用語のミニ辞典

トロリ線
パンタグラフのすり板が直接接触して電気を受け取る架線のことです。すり板とこすれ合うため、少しずつ摩耗していきます。
しゅう動面
トロリ線の断面のうち、すり板と接触して摩耗が進むことでできる平らな面のことです。摩耗が進むほどこの面の幅が広がります。
残存直径
摩耗によって細くなったあとに、まだ残っているトロリ線の直径のことです。従来はしゅう動面幅から換算して求められてきました。
残存断面積
摩耗によって失われた分を差し引いた、現在のトロリ線の断面積のことです。光切断法では新品との差分から直接求められます。
摩耗限度(張替限度)
これ以上摩耗が進むと強度上の安全が保てなくなるとして定められる、残存直径や残存断面積の基準値です。事業者や線区の条件によって定められます。
局部摩耗
路線全体ではなく、特定の限られた箇所だけ摩耗が早く進んでしまう現象です。駅の発車側やわたり線などで起きやすいとされています。
偏摩耗
しゅう動面が水平な一直線にならず、斜めや段差のある形にすり減ってしまう摩耗のしかたです。従来の幅からの換算がうまくいかない原因になります。
離線
走行中にパンタグラフが架線から一瞬離れてしまう現象です。離線が起きるとアークが発生し、電気的な摩耗の原因になります。
アーク
離線した瞬間などに、電流が空中を飛び越えようとして生じる放電の火花です。その熱でトロリ線やすり板の表面が溶けて失われます。
イヤー
トロリ線側面のみぞにかみ合わせて取り付ける金具で、これを介してトロリ線がハンガーからちょう架線に吊り下げられています。
みぞ
トロリ線の左右の側面に通っているへこみで、イヤーをかみ合わせて吊り下げるための構造です。
光切断法
細いスリット状の光を対象物に当て、その光の線の曲がり方から断面の形状を非接触で読み取る測定手法です。鉄道総研がトロリ線の断面測定に応用しています。
電気検測車
架線の摩耗や偏位、高さなどを走行しながら連続して測定する専用の車両です。保守用車や軌陸車に検測装置を搭載する場合もあります。
架線設備モニタリング
JR東日本が2021年4月から導入している取り組みで、East-iに搭載したカメラやセンサーの画像などのデータを活用して架線設備の状態を把握するものです。
キロ程
路線の起点からの距離のことです。検測結果はキロ程ごとの数値として記録され、摩耗が進んだ箇所の特定に使われます。
剛体電車線
トンネルなど、たわみを持たせにくい場所で使われる、硬い構造の電車線です。光切断法による断面測定はこの剛体電車線にも適用できます。
すり板
パンタグラフの先端にあり、トロリ線と直接接触して電気を集める部品です。摩耗を前提とした消耗品として扱われています。
偏位
軌条面(レールの走行面)に垂直な軌道中心から、トロリ線が左右方向にどれだけずれているかを表す値です。軌道中心から左右で最大250mm(新幹線は300mm)までと定められています。
曲線引装置
曲線区間でトロリ線を曲線の外側へ引っ張り、軌道中心付近の位置に保つための金具です。この金具を取り付けたトロリ線の偏位は、曲線の外方へ200mmを超えないものとされています。
ジグザグ架設
地上部の直線区間で、トロリ線を軌道中心に対して左右へ交互に振って架設する方法です。パンタグラフのすり板の同じ場所ばかりが摩耗しないよう、接触する位置を分散させる役割があります。
トロリ線の高さ
軌道面(レールの上面)からトロリ線までの上下方向の距離です。標準は5,100mmで、在来線では4,400mmから5,400mm、新幹線では4,800mmから5,300mmの範囲に収めることとされています。
こう配(架線の)
トロリ線の高さが区間に沿ってどれだけの割合で変化するかを表す値です。パンタグラフの追従が追いつかなくなるのを防ぐため、本線では3/1000以下、側線では15/1000以下に制限されています。
軌道中心
軌条面に垂直な方向で見た、軌道の左右の中心の位置です。偏位は、この軌道中心からトロリ線までの左右方向のずれとして測られます。
径間
トロリ線を支える支持点と支持点の間の距離のことです。高さのこう配の制限は、この径間の中でトロリ線の高さがどれだけ変化してよいかという形で定められています。
集電舟
パンタグラフの上部にあり、すり板を取り付けてトロリ線と接触させる部分です。トロリ線の高さや偏位の変化を、すり板を通じて受け止める役割を持ちます。
シンプルカテナリ架線
ちょう架線とトロリ線をハンガーでつなぐ、架線方式のうちもっとも基本的な構造です。最高速度100km/hまでの区間で用いられます。
架線検測装置
摩耗、偏位、レール面からの高さ、パンタグラフの衝撃加速度などを、列車を走らせながら連続して測定し、リアルタイムに表示する装置です。専用の電気検測車のほか、保守用車や軌陸車にも搭載されます。